GPS測量

電子基準点

国土地理院のGPS連続観測システム(GEONET GPS Earth Observation Network System)の構成要素としてGPS人工衛星からの電波を地上で連続して受信する設備が各地に設けられており、この地点を電子基準点といいます。4個以上の衛星を複数の電子基準点で同時に観測し各々の行路差から電子基準点間の相対的な位置関係(基線ベクトルといいます)を決定することができます。全国に約20キロメートル(東海、南関東は約10キロメートル)間隔で1200点設置されており三角網を構成しています。観測データは時々刻々と電話回線で、つくば市にある国土地理院の測地観測センターに集められ電子基準点の位置の変動(地球の歪み)が監視され地震や火山活動の調査研究に活用されています。異常データが観測されたときには報道されることもありますが地震予知は気象庁などのデータも含め地震予知連絡会で検討されます。

電子基準点は一見するとゴミの焼却炉のように見えますが高さ5メートルのステンレス製の柱(ピラー)で上部にGPS人工衛星からの電波を受信するアンテナと内部には受信機(写真の黄色いTrimble 社製のGPS受信機と同等品)と通信用機器が格納されています。各電子基準点には固有の名称(例:京都左京2)と番号(例:960643)がついています。アンテナ基部には電子基準点付属標といわれる直径16センチメートルのステンレス金属標が埋設してあり将来、他の方法による測量にも利用できるようになっています。この付属標の番号は電子基準点本体の番号の末尾にAをつけたものです。(例:960643A)電子基準点付属標は2007年(平成19)からその一部が二等水準点の扱いになりました。

2005年(平成17)末現在、わが国で最端にある電子基準点は最北は北海道「稚内3」6841−27−1601(以下「 」内は点名、つづく数字は基準点コード)、最東は東京都「南鳥島」3653−37−4802、最南は東京都「沖ノ鳥島」3036−50−0602、最西は沖縄県「与那国」3622−57−4501になっています。また最高点にあるのは「富士山」5338−05−2802で2002年(平成14)に設置されましたがその標高は3777.5メートルですぐ近くの二等三角点「富士山」5338−05−2801の3775.6メートルよりも電子基準点の柱(ピラー)の長さ分だけ高くなっています。基準点としては日本最高です。もともと富士山には三角点よりも高い3776メートルの最高地点がありました。

右の写真は三浦市油壺にある電子基準点(三浦2 960759)ですが受信アンテナの柱(ピラー)の最上部の白い丸い部分はアンテナのカバーです。その下にある装置は大気遅延誤差を正確にもとめるための気象観測装置で気温、気圧、湿度などを測定してGPSデータとともに国土地理院のセンターに送られます。しかし現時点では気象測定データによる補正は行われていないようです。このような気象観測装置のついている電子基準点は全国に30ヶ所程度しかありません。

GPS固定点

電子基準点とは別に基準点としてGPS固定点というのがあります。どちらもGPS人工衛星からの電波を受信する施設ですが電子基準点が地殻変動監視が主目的であるのにたいしてGPS固定点の方は地籍調査のための基準点で四等三角点の偏心点となっています。地方自治体からの要望により国土地理院が設置しています。これにより地籍測量をする地方自治体などの測量作業員が既知点となる三角点へ出向き測量機器を設置し観測をする必要がなくなり作業効率が向上します。GPS固定点の形状は電子基準点よりも低く屋上に設置される場合が多いようです。またアンテナ以外の受信機など通信機器は電子基準点の場合は柱(ピラー)内部に格納されていますがGPS固定点の場合は建物内部に設置されています。全国に約100点あります。

高精度比高観測点

地図:掛川

電子基準点やGPS固定点のほかに2007年(平成19)現在、GPSを利用する観測点として「地殻変動観測点」(例:長野 上田市)「高精度比高観測点」(例:静岡 御前崎)、「GPS機動連続観測点」(例:宮城 牡鹿半島)などが国土地理院により設置されています。移動可能なGPS連続観測装置もありこれらは測量法に定められている基準点(三角点、電子基準点などの国家基準点)にはなっていませんがGPS衛星から受信するデータは同じです。

東海地方では地殻変動の監視のため電子基準点とおなじものが掛川から御前崎までの間に25点あり「高精度比高観測点」と呼ばれています。右の写真は掛川市総合病院駐車場にある高精度比高観測点(電子基準点)です。高さ2.5メートルの八角形のステンレス製の装置で内部にはアンテナ、送受信機などがあります。「No.98H024 建設省国土地理院」のプレートがあり地面には直径16センチメートルの付属標があります。

この高精度比高観測点の近く、掛川市杉谷には国土地理院東海機動観測基地があります。東海地方で予想される地震について情報収集と防災対策のための観測を行うことを目的として1996年(平成8)に設置されました。

地殻変動観測点

地図:別所温泉

上田市下之条にある千曲川河畔の上田古戦場公園の北東端に見られます。ピラーには「地殻変動観測点(GPS地殻変動観測施設)No.00R017」の表示があり地上高さは約3メートルです。ピラーの下には直径8センチメートルの付属標があります。電子基準点と同形式で受信データも同じですが目的や維持の都合上、電子基準点と区分しているようです。

この設備は2005年(平成17)から(試験的には2002年頃から)の「糸魚川・静岡間の構造線断層帯における重点的調査観測」のための施設で長野県には多数設置されていますが宮城県や北海道などにもあるようです。

可搬型連続観測装置

移動可能な連続観測装置は火山活動が活発な地域で用いられています。レグモス(Remote GPS Monitoring System GPS火山活動変動リモート観測システム)と呼ばれ商用の電源や通信が利用できないところでも連続してGPS測量ができるよう太陽光発電設備や衛星通信用のアンテナが装備されています。つくば市の国土地理院本院に転送された観測データは解析され火山変動の基礎資料となります。写真の中央上部の白い球体は内部に受信アンテナが入っており右上の白い四角の板はデータを転送するための衛星通信用アンテナ、装置本体の側面は太陽光発電パネルを貼り付け電源としています。

GPS測量

GPS (Global Positioning System)は全地球測位システムといわれ米国の国防総省によって開発され運用されています。地球の重心を焦点として楕円軌道を描きながら地球を周回する人工衛星から発信される信号を利用することにより地球上のどの地点でも正確な位置を求めることができます。人工衛星は高度2万キロメートル(地球直径の約1.5倍)の軌道上に24個ありますが6軌道を各軌道に4個の衛星があり11時間58分2秒(2分の1恒星日に相当)の周期で周回しています。恒星日は子午線上にある恒星が翌日に再現する時間ですが地球が公転しているため太陽時間より短くなります。人工衛星の軌道上の速さは秒速約4キロメートルになります。もともと軍事用なのですがカーナビゲーションやマリンナビゲーションなどにも利用されています。

一般相対性理論によると時計の刻みは時計の置かれた場所の位置エネルギーによってわずかに変わります。同じ時計でも地上に置いた場合とはるか上空にある場合で時の刻み方が変わるのです。地表の2万キロメートル上空をまわる人工衛星に積まれた原子時計はこの効果をあらかじめ考慮しており地上で動作するときの周波数を低めに調整してあります。(100億分の4程度)そうすると打ちあげられた軌道上で地球上の時計と刻みが一致します。

人工衛星から発信される信号は精度の高い時刻と衛星の位置情報でありL1帯(1.5754GHz)とL2帯(1.2276GHz)の周波数で送信されます。発信時刻と受信時刻の差から衛星と受信位置間の距離がわかるので原理的には3個の衛星からの情報を受信できれば受信位置の座標(x,y,z)の決定は可能です。ところが実際には時刻に誤差があることや電離層による電波遅延の影響があるため衛星と受信位置間の距離は誤差を含む疑似距離(シュードレンジ)になっています。

衛星には原子時計が搭載されており時刻はきわめて正確であり、また地上からの指令により校正も可能です。しかし受信機側の時刻は通常のクォーツ時計程度の精度しかありません。そこでもう1個(4個目)の衛星からも受信して衛星と受信位置との関係式を増やし正確な受信時刻の補正値を知ることが必要となります。 あらかじめ3個の衛星で得られた擬似距離から仮の位置が決まります。ついで4個目の衛星の電波が仮の位置まで届く時間は衛星の位置(軌道情報)が分っているので計算できます。したがって実際に測定した受信機の時計と比較すれば誤差が分ります。いいかえれば未知数が座標(x,y,z)、時刻の4つですから4個の衛星からの電波伝播時間をもとにして4元連立方程式を解けばよいことになります。実際はそれぞれの測定誤差があるため4個以上の衛星から受信して最も確かな値を得るようになっています

測量においても位置情報を得るには三角測量にかわりGPS測量が主流になりつつあります。 宇宙にあるGPS人工衛星を三角点とみなすわけです。基準点測量の場合は上空視界は水平線から上空方向に15度よりも広くひらけていることが必要です。上空視界を確保するためアンテナポールをもちいて高い位置で受信することもあります。ナビゲーションでは「1点測位法」といい1台の受信機とアンテナを使用して位置をもとめますが測量では「相対測位法」といい複数の既知点と新設点(普通は3〜4ヶ所)に設置したGPS受信機で同時に受信し観測点間相互位置を求めます。観測地点ではすぐに位置情報は得られませんが計算プログラムの処理により衛星と受信機双方の時計誤差を相殺でき精度の高い測量成果が得られます。

GPS測量では、まず地球の重心を原点0にとった「地心直交座標系」で位置ぎめをします。地心直交座標系というのは、原点0で互いに直交するX・Y・Zの3つの軸をもつ座標系のことで、X軸は東経0度の子午線と赤道の交点をとおり、Y軸は東経90度の子午線と赤道の交点をとおり、Z軸は北極点をそれぞれとおります。GPS測量ではX、Y、Zの位置を測って数学的に整った回転楕円体の上の高さを計算します。これを「楕円体高」いいます。GPS測量では海面やジオイドとは無関係に高さを計算するのでジオイドから測った「標高」は求まりません。

一等三角点「南鳥島」3653−37−3901は1992年(平成4)に新設されましたが、この位置は三角測量ではなくGPS測量によって定められました。

準天頂衛星システム

現在、日本で計画中の新しい衛星測位方式として準天頂衛星システム(QZSS、 Quasi-Zenith Satellite System)があります。QZSSは日本で天頂付近に常時1個の衛星が見えるように複数の軌道面にそれぞれ配置された衛星を組合せて利用する衛星測位方式です。衛星の軌道は軌道傾斜角(赤道面から見た軌道面の傾き)をもって地球の自転と同じ周期で地球を回ります。衛星が常に天頂方向にあるため山やビルなどに影響されず全国をほぼ100パーセントをカバーできる高精度の方式です。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発中の最初の準天頂衛星は2009年(平成21)に打ち上げられ2015年には合計3個となる予定です。

高度基準点測量・地域基準点測量

一等三角測量は三角点が新設された1883年(明治16)から1915年(大正4)までで以来、第二次大戦終了までは地震などの復旧測量で局部的に実施されただけで全国的な規模での繰り返し測量は行われませんでした。戦後、1946年(昭和21)の南海道沖地震の翌年から5年がかりで復旧測量が行われましたが地震による地殻変動を明らかにし二等三角点以下の復旧測量のための既知点としての成果を得ることができました。

全国を対象とした第1回目の一等三角点の繰り返し測量は「第一次基本測量長期計画」にもとづいて1953年(昭和28)から1967年(昭和42)まで行われました。その結果、約半世紀間の日本列島の地殻変動が明らかになりました。戦後、第2回目の繰り返し測量は1968年(昭和43)から開始されましたが1973年(昭和48)までは明治から踏襲された方式による測量(三角測量)で、これが最後になりました。

1974年(昭和49)からは「第三次基本測量長期計画」にもとづく「精密測地網一次基準点測量」に移行しています。当時、長距離用の高精度光波測距儀が開発され測量方式は従来の角度を測定する三角測量から直接、距離を測定する三辺測量にかわりました。また二、三等三角点の全国規模での繰り返し測量も行うことが計画されました。一、二等三角点、6,000点、平均辺長8キロメートル(のちに20キロメートルに変更)の「一次基準点測量」を5年周期で繰り返し、三等三角点、32,700点、平均辺長4キロメートルの「二次基準点測量」を10年周期で繰り返す計画でした。一次基準点測量は1984年(昭和59)に第1回目の測量が終了し1993年(平成5)には第2回目の測量が終了しています。二次基準点測量は地殻変動、都市開発などにより再測量を必要とする地域から1993年(平成5)まで行われました。

一次基準点測量は1989年(平成1)までは光波測距儀が使用されましたが1990年(平成2)からはGPS測量機が導入され1993年(平成5)からはすべての場所でGPSが使用されています。1994年(平成6)の「第五次基本測量長期計画」からは一次基準点測量に替わり「高度基準点測量」が実施されています。この測量は一等三角点と二等三角点の一部で構成される約2000点の三角点を全国に設置されている電子基準点を既知点としてGPS観測によって高精度な測地学的位置を求めるものです。この高度基準点測量を5年周期で繰り返し実施することにより日本列島の地殻変動を検出することができ地震予知、火山噴火予知の基礎資料となります。2002年(平成14)には第1回目の測量が終了しています。二次基準点測量の方は1994年(平成6)から「地域基準点測量」に名称が変更されました。[国土地理院:三角点の設置と繰り返し測量「国土地理院時報」100集 2003 p9−10]

以上、繰り返し測量の名称などが変更になり複雑になりましたがまとめると、一等三角点についてはつぎのとおりです。

1883年(明治16) 三角点新設時の測量、1915年(大正4)まで
1953年(昭和28) 一等三角点第1回繰り返し測量、1967年(昭和42)まで
1968年(昭和43) 一等三角点第2回繰り返し測量開始
1974年(昭和49) 精密測地網一次基準点測量に移行、光波測距儀による三辺測量の採用
1994年(平成 6) 高度基準点測量に移行、電子基準点とGPS観測の採用

現在はGPSなどの測量技術が進歩し従来の三角測量が行われることはまずありませんが「三角点」という名称は残っています。水準点などとあわせ位置座標が定められた点を「基準点」とも呼ばれ基準点を設置する測量を「基準点測量」といいます。近年の工業高校の測量の教科書につかわれる用語では「三角点」はまだありますが「三角測量」はなくなり「基準点測量」になっています。測量方法がどのように進歩しても三角点は地球上に位置を特定するため必要不可欠な標識です。


■Top of this Home Page
■Next Page