磁気点は地球の磁気(地磁気)の地理的な分布を明らかにするため地磁気を測量をする地点です。1949年(昭和24)から地理調査所(のち国土地理院)により全国各地には定点観測点として磁気点の標石が設置されています。一等磁気点だけでも北は北海道礼文島、南は小笠原まで約100ヶ所にあります。1954年(昭和29)からはさらに細かい分布を知るために二等磁気点も設置され約850ヶ所にありますが現在は測量はされていません。一等磁気点のうち20点を基準磁気点とし2年に1回測定し、そのほかは原則として5年に1回になっています。[国土地理院測地部:一等磁気測量成果集録 1995 p1]
磁気点は三角点や水準点のように地形図上に表示されることはありませんが例外としては二万五千分の一地形図「幾寅」昭和40年3月30日発行では幾寅集落の南にあり、また一万分の一地形図「多摩霊園」昭和30年3月30日発行では東京天文台構内に磁気点と記載が見られますが現在、実物は亡失しています。磁気点の設置は鉄道などの人工的磁場の影響がなく周辺位置での磁気が大きく変わらないところ(磁気勾配がすくないところ)が選ばれます。一等磁気点では直流電気鉄道から5キロメートル以上、交流電気鉄道、送電線鉄塔からは2キロメートル以上、配電線からは500メートル以上離れていなければなりません。
加西市磁気点
地図:北条
兵庫県西部にある北条鉄道の終点である北条町から北へ4キロメートル、加西市若井町にあります。若井町の西南に清水池という溜池がありますがその北東角の薮のなかに磁気点が見られます。姫路に隣接しているので、この磁気点の点名は「姫路」になっています。
磁気点標石は背丈以上の笹やイバラに埋もれており写真を撮るのに苦労しました。大きさは一辺15センチメートル、地上高18センチメートルの角柱で材質は花崗岩です。上面の中心には直径1.3センチメートルの丸い窪みがありその周囲には外径8センチメートル、内径5センチメートルのドーナツ状の溝があります。観測機器の中心を合わせて載せるためです。
標石の側面の刻字は南面は「磁気点」、西面は「地理調」、北面は「No57」、東面は「基本」とありました。「地理調」とあるので国土地理院の前身、地理調査所の時代の標石ですが一等磁気点の気「姫路」を調べると1974年(昭和49)に設置後、1993年(平成5)に700メートル南東の現位置へ再設されています。いずれにしても国土地理院になってからのことです。標石の周囲に黒い木杭が3本ありますが磁気儀の三脚を載せるために設置してあります。
姫路市磁気点
地図:安志
姫路市のはずれ、市街中心から北西へ12キロメートル、国道29号を林田町伊勢から東へ分岐し4キロメートルほど北へ行くと大堤という集落があり、東に溜池が見えます。この池の東岸と民家の間を抜け東の竹林を70メートルほど登り、ちょうど竹林がヒノキ林に替わる地点にありますがササの枯葉などが積もり見つけるのは相当難しいところです。 竹林の通行は民家に立ち寄り了解を得ました。点の記によればこの磁気点の点名は「林田」になっており、二等磁気点です。
大きさは一辺12センチメートル、地上高14センチメートルの角柱で材質は花崗岩です。上面の中心には直径1.5センチメートルの丸い窪みがありその周囲には外径6センチメートル、内径4.5センチメートルのドーナツ状の溝があります。標石の側面の刻字は南面は「磁気点」(「点」は地中、竹の根がからまり確認できず)、西面は「国地院」、北面は「No461」、東面は「基本」とありました。
今津町磁気点
地図:饗庭野
この磁気点の点名は「今津」になっています。滋賀県北西部今津町の西、箱館山の山麓南にある梅原の集落近くに設置されています。集落のはずれ弓削神社の北の溜池の堤下です。
標石の側面の刻字は南面は「磁気点」、西面は「地理調」、北面は「No5」、東面は「基本」とありました。そばに木製の標示杭もあり「建設省国土地理院」、「一等磁気点 No.5 今津」、「基準点 平成5年10月18日」と記されていました。
地磁気の観測
地磁気は大きさ(強さ)と方向をもったベクトルであり偏角、伏角、強さ(水平分力、鉛直分力)を三要素といいます。偏角や伏角は角度で、強さはテスラ(T)という磁束密度の単位であらわしますが地磁気は微小なので1テスラの10の9乗分の1にしたナノテスラ(nT)であらわします。かつてはガンマ(γ)という単位であらわしていました。わが国の地磁気はおよそ50,000nTです。強さは水平、垂直各方向ごとに求めます。測定は強さをプロトン磁力計などで、また偏角や伏角はトランシットに磁気センサーをつけたDIメーターなどで計測します。
地磁気の強さを観測する計測器としてプロトン磁力計とフラックスゲート型磁力計(グラジオメーター)があります。プロトン磁力計は磁界の強さを精度よく求められますが磁界の向きはわかりません。これに対してフラックスゲート型はプロトン磁力計に比べて感度は劣りますが磁界の強さだけでなく向きを求めることができます。
プロトン磁力計の測定原理は核磁気共鳴を応用したものです。水素の原子核(プロトン)が地磁気の影響を受けてコマのように回転することを利用しています。このコマのことをスピン(磁気モーメント)といいます。外部の磁気がない状態ではスピンはランダムな方向を向いていますが外部から磁気が作用すると各スピンは磁気(外部磁場)と同じ方向に向きをそろえようとします。ただし、個々のスピンは外部磁場の方向を中心にスピンの方向と直交する磁場の強さに比例した周波数で回転します。これをラーモア歳差運動と呼びます。傾いて回っているコマの心棒に見られる円錐運動「コマのみそすり運動」と同様です。この現象は核磁気共鳴(NMR)といい医学にも応用されています。
そこで磁力計は、いったん強い電磁石でこのコマの回転をそろえておいてから、とつぜん電磁石の電流を切ります。まわっているコマは地磁気の影響だけで「コマのみそすり運動」をはじめます。みそすり運動の速さは地磁気の強さに比例するので電磁石のコイルを利用して電気的に検出すれば、その位置での地磁気の強さがわかるわけです。測れる精度は地磁気の強さの10万分の1ほどです。
実際には非磁性の容器に水素原子を含んだ灯油(ケロシン)または純水を満たし容器の周囲にトイダル型コイル(ドーナツ状の鉄心に電線を巻いたコイル)を置いたセンサー(検出器)をつかい直流電流による励磁をします。灯油中のプロトンは回転運動をしますが励磁を急にきっても、そのまま回転運動をつづけコイルに微弱な電圧を誘起するので、これを増幅して周波数カウンターで計測します。励磁、停止、増幅は交互に行います。核磁気共鳴を応用した磁力計にはプロトン磁力計のほか、オーバーハウザー磁力計といわれるものがあります。2個のプロトンが空間的に近い位置にあるとき一方が共鳴するとスピンは飽和し他方のプロトンの信号強度が増大する現象をオーバーハウザー効果といいますが、この効果を利用することで効率よく測定ができる磁力計です。
一方フラックスゲート型磁力計は飽和鉄心型磁力計ともいわれます。高透磁率の鉄心に巻いた励磁コイルに交流を流すと外部磁気の影響があれば磁気飽和の状態が変化します。これを感知コイルにより電圧として外部にとりだします。センサーを南北、東西、鉛直の3方向に直交させて取り付けると地磁気の正確な方向が3成分(南北、東西、鉛直成分)で計測することができます。製品として三軸磁力計があります。[柳田博明:最新検知システム総覧 技術資料センター 1982 p351]
磁力計は磁気点以外でも使用しますが室内では検出器近くに金属があると磁界が乱れるため木製の置台などをつかいます。またデータ処理装置も離隔して設置されます。地磁気の向きには真北からのずれの角度(偏角)と水平面からの傾きの角度(伏角)があります。偏角、伏角の測定には偏角伏角磁気儀やGSI型磁気儀があります。磁気儀には望遠鏡(トランシット)がついていますが基準となる方位に設置された目標(方位標)を視認するためです。
偏角伏角磁気儀(DIメーターともいいDIのDはDeclinationで偏角をIはInclinationで伏角を表します)は非磁性の望遠鏡に一軸のフラックスゲート型磁力計の検出器をとりつけた磁気儀で水平または垂直方向に回転させ外部磁気の値がゼロを示したときの水平角または鉛直角から偏角、伏角を測定します。
GSI型磁気儀は坪川式ともいわれ地理調査所(国土地理院の前身)の坪川家恒(1918〜1994)により開発されたものです。コイルを磁界中で回転させ、回転軸を地球磁場の方向に傾けていくとコイルの誘起電流がゼロになります。このときの回転軸と水平面のなす角が伏角です。偏角も同様に方位標からの水平角と方位標の方位角を合わせた角になります。偏角と伏角が同時に測定可能です。[地理調査所:坪川技官による「GSB型磁気儀」の完成なる「地理調査所時報」9集 1950 p5][日本測量協会:鹿野山測地観測所の草創期 地球を観測し続けた技術者たち(上)「測量」 日本測量協会 2006.10 p15]
磁気点で測定された値には日変化や磁気嵐などの影響が含まれています。また全国にある磁気点を同時に測定することもできません。そこで茨城県八郷町柿岡にある気象庁地磁気観測所の観測値を基準にして補正計算をします。
航空磁気測量
火山地域の磁気は周囲の平均的な磁気と大きく異なり火山活動によって変化します。上空から観測することによって噴火予知などの基礎データを得ることができます。写真は国土地理院の測量用航空機「くにかぜ」の尾部ですが朱色の球体がプロトン磁気センサーです。航空磁気測量は空中磁気測量ともいい1962年(昭和37)から実施されています。
海上保安庁でも測量船により海上地磁気の測定をしています。鉄でできた船体の影響をさけるため船体から300メートル程度離した曳航式プロトン磁力計を用います。
鹿野山測地観測所
地図:鹿野山
国土地理院の前身である地理調査所では1956年(昭和31)から千葉県鹿野山で地磁気観測を開始しました。その後、地磁気、天文、重力測量などを行う施設が拡充され1962年(昭和37)からは国土地理院の一組織として測地観測所が発足しましたが1965年(昭和40)頃から国鉄房総西線の電化計画が起こり地磁気観測の一部を岩手県水沢に移転することになり1969年(昭和44)には水沢測地観測所が発足、従来からの測地観測所は鹿野山測地観測所と改名されました。[日本測量協会:鹿野山測地観測所の草創期 地球を観測し続けた技術者たち「測量」 日本測量協会 2006.10 p14−17,2006.11 p14−17、2006.12 p12−15]
1995年(平成7)からは水沢測地観測所、鹿野山測地観測所など11ヶ所で24時間連続した観測もやっています。各地で得られたデータは電話回線を用いてつくばのセンターに集められ解析されています。また地磁気の観測は国土地理院だけでなく気象庁地磁気観測所、海上保安庁、通信総合研究所電波観測所、大学などでも行われています。